往復動圧縮機の吸入/吐出弁のバルブプレートは近年樹脂製の使用が主流となっています。それ以前はステンレス製のメタルプレートでした。メタル製はそれ自身樹脂製に比べ強度が高いので平板プレートの厚さは1~2mm程度まで薄く出来ます。薄くすることでプレートを収めるバルブガイドの厚さを下げることが出来、その分クリアランスボリュームを少なく出来ます。クリアランスボリュームの低下はガス流量の増加に繋がります。また金属製ということで上下のリフト運動を片振れの無い平行移動出来るようにタイボルト貫通部の一部の表面を削りスプリング機能を持たせるという加工も施すことが出来ます。
 一方、樹脂製プレートは製造、加工、組み付け等の面から大幅なコスト低減が可能となり性能面でもメタル製に劣らない結果を出すようになって来ました。特に運用上の大きなメリットとして騒音低下があげられます。メタルプレートによるバルブ内での金属同士の衝突音に比べ金属と樹脂との衝突音はデシベル値を大幅に低下させます。
 樹脂製プレートは金属に比べ当然強度的には劣るので同じ平板プレートとすればプレート厚さは4~6mmと厚くなりますが逆にその肉厚を利用してガス通過部の断面形状を曲面にしガス通過損失圧力を低下させることも出来ます。バルブプレートの通過損失圧力の低下はガス流量の増加が図られます。但しプレート厚さが増える分ガイドの厚さも増えるのでクリアランスボリュームも増加しガス流量の低下を導きます。プレート厚さは通過損失圧力への影響及びクリアランスボリュームへの影響というガス流量の変化という点で相反する現象が生じますが、クリアランスボリュームによる影響は損失圧力に比べ少ないので樹脂プレートを選択するメリットは大きいと思われます。またトラブル発生時、例えばプレートが損傷し欠けた一部がシリンダー内に混入した場合、それが樹脂製プレートであればシリンダー摺動部に与えるダメージはメタルプレートに比べればはるかに小さいです。
<PEEK材>
 樹脂製プレートの樹脂材料としては主にPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材が使われます。メタルプレートの金属材としてステンレス製材が使われるのと同じように樹脂製プレートのPEEK材は樹脂としての強度性と添加する充填材によって一部を除いてあらゆる種類のガスに対し化学的耐性を有しその汎用性は抜群です。メーカー様によってはマイナス162℃に至るLNGガスを処理する圧縮機のシリンダーバルブに使用するプレートも用意されています。万能のPEEK材にも苦手なガスが存在します。最も使用してはならないガスがエチレンを重合してポリエチレンにするプロセスラインでTEAL(トリエチルアルミニュウム)という触媒を使用しますがこれにPEEKが接触すると激しく損傷します。その他塩素ガス等塩化物系のガスは使用不可です。塩化物系ガスに使用できる樹脂製プレートは各メーカー様は特殊樹脂材として別途保持されています。確定はしていないですがアンモニアガスに対しても相性は良くないという報告を聞いています。PEEKの最高使用温度は200℃を少し超えたぐらいまで使用可能です。
<ナイロン材>
 樹脂製プレートとしてナイロン材を使用するメーカー様がいらっしゃいます。ナイロン樹脂はPEEK材ほどの強度はないですが馴染み性が良く金属との衝突による衝撃を和らげるのでPEEK材ほど損傷に繋がりにくいです。但し最高使用温度は145℃位で、最高使用差圧力もPEEK材に比べ制限されます。また吸湿性があるのが難点で梱包なしで保管しておくと空気中の水分を取り込み寸法が僅かに変化します。ガスのシール性が落ちるのでユーザー様も色々工夫をされています。例えば梱包はメタルプレートと同じように空気に触れないようしっかりと防錆紙にくるむとか、灯油漬けにして保管するとか、また乾燥機を使用して元の寸法に戻すというような方法をとっていらっしゃいます。