100%水素ガスあるいは水素ガスを含む混合ガス用コンプレッサーのシリンダーに組まれるテフロン樹脂製リング類は往々にして肥大して異常摩耗や発熱損傷を起こします。 この現象は水素膨潤と呼ばれ圧力変動の繰り返し環境の中でリング内にミクロな水素分子が含浸し膨張してリング本体が肥大するというものです。

大方のテフロン樹脂は樹脂の粉末を圧縮成形して形作られます。この時体内にミクロ単位の空間が形成され、そこに小さな水素分子が含浸するということなのです。 ただ、テフロンリングがコンプレッサーに使われだしたのは40~50年位前からで今までずっと水素ガスを扱う数多くのコンプレッサーが存在します。 水素ガスが含浸し膨潤を起こすというだけではそれら大多数の水素コンプレッサーにはテフロンリングは使えません。 トラブルの原因は水素ガスによる膨潤でしょうか?  膨潤は原因では無く結果ではないでしょうか。

トラブルの原因は色々あるでしょう。ガス温度が高すぎる、高圧力に対する耐荷重不足、ケースあるいは樹脂間のスキマ不足、ピストン速度の過多、冷却水不足、潤滑油量の過多等、原因調査は精査しなければなりません。残された少ない時間で原因究明しなければならない時、安易に妥協して結論を急いだりすることは結構有ります。

確かに小さな水素分子がテフロン樹脂内のミクロ空間に侵入する現象は理解出来ますが、前述の原因でリング本体に素材的欠陥が発生しなければ膨潤のような現象は起きないのではないでしょうか。例えば侵入したガス通路はリング素材が健全体であればずっと残るでしょう。前述のような現象が発生し異常に温度が上昇しガス通路が材料の熔解により塞がれたとしたら、内部に高圧のガスが内包されたリングはシリンダーが解放され大気にさらされた瞬間、膨潤は現出するかもしれません。