シリンダー内でピストン及びピストンロッドの可動部を潤滑する潤滑油を内部油と呼ぶことは前回のブログで申し上げましたが、この内部油の油量は重要です。多すぎても少なすぎても問題で、各メーカー様は独自の適量を規定しています。
近年ピストンリングそしてロッドパッキンは金属製から樹脂製に代わって来ています。テフロンに代表される樹脂製のリング類は潤滑油を使用しなくても直接金属と摺動可能なのと発生音が低減されること、そして何と言っても油を使用しなくて済むことで、メンテナンス上のコスト低減の面から20~30MPa以上の圧力を扱う機械は別としてそれ以外の新規の往復動圧縮機には樹脂製リングが使用されます。但し、時に10MPa以上の圧縮機については内部油を使用する場合もあります。
特に従来、金属製リングを使用している古いタイプの機械は内部油を使用していますが、メンテナンス向上等で樹脂製リングに切り替えた場合など、今までの慣習からなかなか抜けきらず、一気に潤滑油ゼロには出来ずメーカー様のリコメンド量より多く投入してしまいます。油量が少ないと金属製リングの場合は相手金属材と油膜切れを起こし焼き付き発生の基になりますし、樹脂製リングの場合は樹脂材特有の相手摺動材へ転移した移行膜が油とのランダムな接触によって剝がされ潤滑に支障をきたします。一方油量が多いとシリンダー内部で油が滞留しリング材の摺動熱によりかなり高温になります。
樹脂製リングの場合、ピストン周りについては滞留する油もシリンダーバルブから逃げてくれるのでピストンリングの損傷発生は少ないですが(但し、この場合バルブのプレート動作に影響しプレート割れやスプリング損傷の原因となります)、ロッドパッキンの場合、油はパッキンケース内で滞留し悪さを致します。樹脂製リングの耐熱運転温度は低く、テフロンでせいぜい180℃、PEEKで200℃少しオーバーするぐらいです。大量の油量はロッドパッキン損傷につながります。
古いタイプの往復動圧縮機のシリンダー内部を樹脂製リングに改造した時です。運転中シリンダーに繋がったディスタンスピース室内でロッドパッキンのロッド摺動部から大量の油の蒸気が噴き出していました。解放したら耐熱の低いテフロンのシールリングは健全だったのですが、となりのバックアップリングであるPEEKが一部溶けて再使用不能になっていました。
見た瞬間何が起こったのか分かりませんでしたが、つまり常にガスの圧縮/膨張で可動しているテフロンのシールリングは油が大量でもその動きによって油の移動が発生しており、テフロンのシールリングはその耐熱温度まで上がっていなかったと思われます。一方PEEKのバックアップリングは油の粘性でパッキンケースに張り付き動きのない状態となり、PEEK材の周りに一部滞留した油は高熱を帯び、バックアップリングは耐熱温度を超えて損傷したものと思われます。このように樹脂リングを使用し、内部油を適用する場合はメーカー様の推奨油量はしっかりと守って頂きたいと願うばかりです。